悪霊にさいなまれる世界 -The Demon-Haunted World

30代独身機械系技術者が雑記/セキュリティ/資産運用なんかを書きます/PGP・GPG Key:BC884A1C8202081B19A7A9B8AB8B419682B02FF8

オペレーション「ソフト・メロディ」:イスラエル空軍による2007年のシリア原子炉攻撃

2007年9月にシリア北東部の砂漠に建設中だった原子炉がイスラエル空軍の爆撃により破壊されました。当初から少しずつ話は出ていましたが、イスラエルの有力紙「ハアレツ」とイスラエル空軍が公式に作戦の詳細(と言っても全てではない)を公開しました。

www.haaretz.com https://www.idf.il/en/minisites/operations/the-secret-operation-revealed-a-decade-later/

 


Syrian Nuclear Reactor Attack: Step by Step


הפצצת הכור בסוריה: המצגת של המודיעין האמריקאי


Israeli F-15 pilot talks about striking the Syrian nuclear reactor

 

アメリカとの外交問題も含んだクッソ長い記事なので全訳とかはしません。自力でなんとかしてください。上に貼った2枚目の動画が一番わかりやすいです。また、話のアウトラインとしては2013年に出版されている「モサド・ファイル―イスラエル最強スパイ列伝」の第18章「北朝鮮より愛を込めて」と合致してるのでそちらを読んでください(文庫本も出てる)。本稿ではこの「モサド・ファイル」との相違点や記事中気になった点を何点かピックアップします

 

モサド・ファイル――イスラエル最強スパイ列伝 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

モサド・ファイル――イスラエル最強スパイ列伝 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 

  1. この原子炉”The Cube"は北朝鮮製の原子炉(黒鉛減速炭酸ガス冷却炉)で、元は1950年代のイギリスの原子炉の流れをくむ。(恐らくマグノックス炉のことを指す)
  2. ハアレツの記事では2007年3月に、シリア原子力委員会委員長のイスラエルオスマンIAEAの会議に参加するためウィーンに渡航したとき、滞在先の不在中を狙ってラップトップPCからデータを盗んだところ、建設中の原子炉の詳細や、作業をしている北朝鮮労働者の写真など様々なデータを入手したとある。これに対し、「モサド・ファイル」では2007年7月に、ロンドンで、やはり渡航中のあるシリア政府の高官のラップトップPCから同様の手口でデータを盗んだ、とされている。
  3. このときのイスラエル軍情報部司令官アモス・ヤドリン(Amos Yadlin)は1981年にイラクオシラク原子炉爆撃に参加したパイロット8人のうち一人だった
  4. 2007年9月末には原子炉が臨界すると予想され、周囲への放射能汚染を避けるため、それまでに爆撃を行わなければならなかった。曰く、「向こう200年間、ユーフラテス川沿いで障害のある赤ん坊が生まれるたびに我々が批難されるだろう」
  5. 攻撃に参加した戦闘機について。「モサド・ファイル」では前日に現地に特殊部隊シャルダグが潜入し原子炉にレーザを照射、ラマトダヴィッド空軍基地から10機のF-15が出撃し途中3機に帰還命令、またシリアのレーダサイトを爆撃後、マーベリック空対地ミサイルと半トン爆弾(恐らく1000lb.爆弾)を投下し原子炉を破壊した、とある。これに対し今回公開されたハアレツの記事とイスラエル軍の公表ではF-15I「ラーム」4機とF-16I「スファ」4機が出撃し、F-16Iに搭載された16トンの(冗長性を持たせるため)複数の種類の爆弾により爆撃を行ったとされる。
  6. 爆撃行程は完全な無線封鎖で行われ、成功時に「アリゾナ」のコールがなされた。帰還時に投棄した一機の燃料タンクがトルコ領内に落下し領空侵犯の証拠となったが、外交努力により問題とはならなかった。
  7. 原子炉攻撃の11ヶ月後、原子炉建設と警備を担当していたムハンマド・スレイマン将軍が地中海を望むラタキアの別荘でパーティー中に狙撃・射殺されました。ゴルゴ13かよ。

ざっくりこんな感じです。「モサド・ファイル」も「イラク原子炉攻撃!」もオススメなので是非読みましょう。

イラク原子炉攻撃!

イラク原子炉攻撃!